洗浄機の歴史:欧州のロボット思想・日本のCNC思想と近年の変化

我々が関わっている精密部品の洗浄機業界は、昔は少品種大量生産に向いた重厚長大な洗浄機が持てはやされていました。しかし1980年ごろに大きな変化が訪れ、ロボットやCNC(数値制御)の導入が進みました。2005年ごろからは、よりはっきりと重厚長大な洗浄機が廃れていき、ロボットやCNCタイプのコンパクトな洗浄機が主流になっていきました。

当社はCNC方式を選択することで時流に乗り、継続的な成長を果たしてきました。他の競合日本企業もCNCタイプを主に生産し日本の市場は全体的にCNCタイプが主流となって行きました。しかしその頃、欧州の企業はロボットタイプが主流となりました。

ロボットタイプというのは、市販の産業用ロボットを用いる方式です。産業用ロボットは、例えば自動車外側の大きな部品を自動溶接するために用いられています。CNCタイプというのは、複雑な形状の部品を自動で削るために用いられる工作機械に採用されている方式です。工作機械は刃物を動かして物を削りますが、洗浄機の場合は刃物の変わりに洗浄用のノズルを搭載するイメージです。

CNCタイプは、作業者がワークを治具にセットしなければなりませんので基本的には作業者が必要です。ノズルでワークを狙う際の位置精度が非常に高いのが特徴です。しかしノズルやワークを動かすことに大きな制約があり、洗浄できない箇所があったりワークを乾燥させずらかったりする問題が発生します。また、もっと根源的な問題として、構造上は治具を洗浄しずらいためワークの洗浄が不完全となりやすいことがあります。しかしながら、CNC方式は工作機械のノウハウを移植することが比較的容易であり、また日本人の得意とする摺り合わせやカイゼンにより、問題点を解決していきました。

ロボットタイプは、ワークをロボット自身が掴んで運ぶことが出来るので作業者を必要としません。ノズルまでワークを移動させて洗浄するのが特徴で、ダイナミックな動作が可能なことから非常に柔軟な洗浄が可能になります。治具を洗浄しやすいなど根源的なメリットも見逃せません。欧州がこの方式を採用したのは、何より理論上はロボット方式が優れているからだと思います。日本は摺り合わせを大事にするのに対して、欧州は理論的に正しい事を重視しているように思います。しかしロボット方式には大きな問題がありました。ロボットが巨大になりがちなことと、市販の産業用ロボットは水に弱く、1年ほどで壊れてしまうことです。また位置精度もさほど高くなく、精密な動作が苦手です。また、産業用ロボットは容易に買うことが出来るため、ロボット洗浄機を造れるメーカーが乱立し過当競争になった結果、長らくイノベーションが起きにくい環境になったと思います。

この様な状況により2015年あたりからは、現在の市場では理論的に正しいはずのロボット方式が、CNC方式に負けてきているように思います。しかしそれと同時に欧州、日本ともに考え方に変化が訪れてきました。

欧州メーカーがCNC方式方式を採用しはじめ、日本メーカーがロボット方式を採用し始めたのです。双方が、今までのやり方に限界を感じ、新しい方向を模索し始めたのだと思います。現実は、どのメーカーも苦労していると思います。しかし私はこの動きをポジティブに捉えています。1980年以来停滞していた我々の業界にイノベーションが起きると思うのです。

我々の考え方はこうです。「欧州のロボット思想は今でも正しい。我々は摺り合わせばかり考えて理論を忘れていたのでもう一度基本的な理論に立ち返るべきだ。正しい理論を採用するための問題は2つ。ロボットが壊れること、効率が悪いことであり、その解決策を提案すればイノベーションを起こせる」

我々は2019年に、ダブルロボット方式を開発しました。ロボットを社内でゼロから開発することで高度な防水性能を獲得し、更にロボットの大幅な小型化に成功し、ひとつの設備に二つのロボットを設置することに成功しました。こうして二つの問題を根本から解決し顧客の生産性を飛躍的に高めることに成功しました。我々はこのダブルロボットにより業界にイノベーションを引き起こそうと考えています。

しかし一方で、日本国内他社においてもユニークな構造の洗浄機が出てきており、、欧州もまた独自の考え方によるCNC方式を提案しており、次世代スタンダード奪取に向けた熾烈な戦いが始まっていると思います。我々はこのような健全に進化していく市場を更に盛り上げるべく、切磋琢磨していく所存です。(以上は個人的な見解です。) 


2019年10月4日 記)名越

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